だってほら、今更じゃん?
今になって、そんなこと言える筈もねーし!










この距離を壊したくない










「たるんどるっ」
「…似てねーよ、バァカ」

一生懸命仁王立ちしてる目の前のを見て、俺は呆れ顔。
真田副部長はそんな声高くねーし。
目の前に立たれたら既にオーラで解るっつの。

「何よー、部活に遅れそうだから、起こしてやろうと思ったんじゃない!」

むーっと膨れて腰に手を当てて、は俺を睨む。
あ、見下ろされるのって新鮮。

真田副部長の真似すりゃ起きる、って誰かに吹き込まれたんだろうな。
まー…うん、確かに似てれば俺は毎回飛び起きてるし。
でもこいつは似てない。絶対似てない。
…だって可愛すぎる。
似てないけど、起きたのは…あれだ、惚れた弱みだ。

「へーへー。そりゃありがとさん」
「わ、可愛くない!折角幼馴染が鉄拳を免れるようにって協力したのにその言い方!」

可愛いなんて言われて嬉しいと思うか!
反射的に怒鳴ろうかと思いながらも出来ない俺。
惚れた弱みって結構なモンだとつくづく思う。

そもそも、もう誰もいなくなった教室にと2人ってだけで
俺はテンションが上がりそうなのに。
部活に行かなきゃ、そう思う半面でともっと一緒にいたい。

でも今更改めてそんなこと言うのは変で、
渋々椅子を引いて立ち上がると、何故か満足げには頷いていた。
…そんなに俺が部活に遅刻するのが嫌なのだろうか。

グラウンドをふと見下ろすと、もうちらほらとテニス部が集まり始めていて、
時計を確認すると流石にマズいな、と思った。
ここから部室まで走って、制服からジャージに着替えたとして…間に合わない。

「あー、もう俺ここで着替えてくわ」
「そう」

うん、そう。
俺ここで着替えるよ?着替えるんだっつの、コラ!!
わざわざ宣言したって言うのに、は別に出て行く気配はない。

「どしたの?早く着替えなよ」
「あー…うん、解ってるけど、お前外出ないわけ?」
「何で?」

キョトン、とは首を傾げる。
や、何で?じゃない。一瞬騙されそうになったけどそうじゃない。
普通!この年で!男が着替えるって言ったら慌てて出てったりとかしない!?

「何照れてるの?もー今更でしょ、お風呂一緒に入ってたぐらいなのに」
「はー!?お前、そりゃ幼稚園のときだろ!?今違うじゃん!」
「変わらない変わらない。今更赤也見たってそーいうのじゃないし」

あっけらかんと言い放ってケタケタと笑いやがった!!
傷つくぞ、そんなハッキリ言われたら、俺。
肩を落としそうになるのを何とか堪えて
言っても仕方ない、とネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。

「お、いい身体」
「オッサンかおめーは!!」

上半身半裸になった俺から目を背けるでもなく、これまた明朗に言いやがった!
確かに褒められて…は、いるんだろうけど、何か違う。
だってあからさまに意識されてない感じがするじゃんか。

「失礼だね赤也!逞しくなったって褒めてやろうとしただけなのに!」
「あーハイハイそうですか!って、オイ!返せよ!」

余程オッサンって言われたことが気に食わなかったのか、…まぁそりゃいい気はしねぇだろうけど、
は人がこれから着ようとしていたポロシャツを強奪した。
得意げに笑いながら、ザマアミロって舌を出す。…餓鬼か。
そんな幼い頃のままなも可愛いとか思ってしまっている自分も相当だけど。
つか、さっきまで俺が遅刻するとか何とか言ってた奴のすることかよ!

とにかく返してもらおうと手を伸ばすとひらりとかわされてしまった。
悪戯っ子の表情を浮かべたまま教室を駆け回るもんだから
綺麗に並んでいた机がガタガタ音を立てて、どんどんぐちゃぐちゃになっていく。

「このっ!」
「え、わ…っ!」

いい加減痺れを切らせて本気で追いかけ、の右腕を掴むと
途端にバランスを崩しては尻餅をつく。
当然その腕を握っていた俺もつんのめって、挙句机の脚に引っかかって見事にこけた。

「ってぇ…」

わーカッコ悪ぃ、俺。
そう思って顔を上げて、…固まった。
両手をついて身を起こすと、その下にびっくりした顔の

「あ、その、えっと…」

流石のも、この状況は恥ずかしいらしい。
どもって顔が真っ赤でちょっと半泣きで、
…マズい、マズいってこれは、色々、な?

「赤也…?」
「っ!」

固まった俺を不思議に思ったのか、は首を傾げて尋ねてきた。
その仕草が…やばい、すっげーツボった。
突っ張っていた手を曲げ、ぐっと顔を近づけると、が息を呑む。
心臓が思いっきりバクバク言ってるのに頭は冷静なのが不思議だ。

「…お前さ、煽りすぎだぜ」
「な、煽ってなんか…!」
「嘘だね。…すっげ、可愛いし」

今まであれだけ言えなかった言葉がすんなりと口をついた。
はやっぱりビックリして目をぱちくりさせてた。
我慢し切れなくてその唇に自分のそれを重ねてしまった。

「!!あ…かや、」
「ちょっとは俺の事…意識、した?」
「意識、って…」

見る見るうちに真っ赤になっていく
さっきまで人の着替え見てても平気な面してたくせに。
一気にお互いの距離が変わったのを感じるけれど、
それは遠ざかるどころか近づいただけの話で。

「赤也、私のこと…どう思ってる、の?」
「わかんねぇ?」

2人してドキドキしながら、まるで腹の探りあいをして、
しばらくそのまま見詰め合ってしまってた。
言っちゃえば、明日から俺達ってカレカノって奴になるのかな。
そう思うと嬉しくて、思わず頬が緩むのを感じながら、

「俺…のこと、さ…」

もどこか期待したように目を揺らしながら俺の言葉を待ってて、
一呼吸おくようにゴクリと喉を鳴らした、そのときだった。

「赤也!!部活の時間はとっくに始まっ…て…」

聞きなれた怒鳴り声に、ハッとした。
あ、ヤベ!部活行かなきゃいけなかったんだ怒られる!!
…と、思って恐る恐る声のした方を見ると、
火を噴くみたいに顔を真っ赤にした副部長が絶句してた。

「え、あの…副部長?」
「た…た…」
「へっ…?た?」
「たるんどる赤也!!!部活をサボるだけでなく、教室でこのような、ふ、不純異性交遊などと…!!!」
「はぁ!?…あ、違っ!副部長、これはっ!!」

憤怒のごとく怒り始めた副部長に、否定しようとするも
…思いっきり半裸の俺が押し倒してるようにしか見えねぇんだった!!
説明しようにも出来なくて慌てて立ち上がると、
がぽかんとしたままポロシャツを返してくれた。
今更滅茶苦茶慌ててそれを着ると、副部長が俺の首根っこ掴んできた!

「言い訳は要らん!その根性叩き直してくれる!!」
「げ…!か、勘弁っス副部長…!」
「すまなかったな、赤也が迷惑を掛けた」
「え?あ…はい、大丈夫です」

オイコラ!!何下手な確信持たせるような発言してるんだよ!
俺が襲ったみてぇじゃん!そんなことしてねぇだろうが!!
薄情者の幼馴染…いいや、もう俺の彼女!は、引き摺られていく俺を見てちょっと笑ってた。

くっそ、副部長の説教と部活が終わったら、ソッコーで続き告ってやる!!

そんな妙な決心を固めると、やっぱり頬が緩みかけて
それに気がついた副部長にとりあえず俺は殴られた。