自覚は、してた。
きっと気付かれてたと思う。

でもオレは何も言わないし、キミも何も言わない。
まるで微温湯に使っているような関係。
…多分、あまりに長く浸かり過ぎたのだろう。
抜け出そうと試みても、外気の肌寒さに足が竦んでいた。






怖いのは拒絶されること






「はぁ〜…ぁ」
「ちょっと、やめてくれない?ソレ」

ポッキーを齧りながら、テレビを見つめたままの背中から声が飛んできた。
せめてコッチ見て言わない?って思ったけど、
明らかにオレのせいで気分を害していると思われる彼女に
文句を言う権利なんて、オレにはない。

「もー、いつまでそんな辛気臭い顔してるの!私帰るよ?」
「えー…だって、オレすっごく凹んでるんだよー…」

今度は流石に振り返って、不満げな視線を送って寄越した。
けれど、あんまりオレが情けない顔をしていたからか、
困ったように眉尻を下げて、は項垂れているオレの頭をポンポンと撫でた。

良くあることだった。
突然オレがを自分の家に呼んで、
が落ち込んでるオレを何だかんだで励ましてくれる。
幼馴染という間柄だからこその、日常のひとコマ。

大抵…というか、全て、オレが凹んでいる理由は同じで
今回もまた、付き合ってた女の子に振られた、それだけのこと。

「全く、キヨは学習が足りないんじゃないの?」

百戦錬磨の癖に、なんて溜息を吐かれて
オレはバツが悪いことこの上ないけど、
未だ頭の上に置かれているの手が心地よくて大人しくしてた。

呆れた声もごもっともだと思う。
先に述べたとおり、これはもう良くあることで
つまりはオレがいつまで経っても同じ様に
女の子と付き合い、そして振られるってことを繰り返してるってことで。

「そうかもー…女の子って、結構気難しいよねぇ」
「相手のせいにしないの!」
「あいたっ!暴力反対!」

ポカ、と軽く叩かれて反抗するも、
やっぱりどこか心配そうにしてくれてる彼女を見ると
そうそうその射程距離から動く気にはなれない。

何だかんだいってもオレには甘いのだ。
だって、心の底からあきれ返ってしまえば
オレが呼び出したって来てくれなくなるだろうに。

実はそれが…かなり嬉しかったりもする、馬鹿なオレ。
は離れていったりしないって、そんなことで安心してる。

「でもさ、キヨ」
「ん?」
「何でそんなに、振られて付き合って、ってしてるの?」

暫しの沈黙の後、ポツリと言いづらそうにが言った。
初めてだった。がそんな余計なことを言うのは。
驚いてオレは俯いていた顔を上げると、
いつも以上に困って、それどころかどこか泣きそうながいた。

「それは…相手のこと好きになっちゃうからだけど、」
「ホントに?」

どこかで警報が鳴ってる気がする。
いつもどおり?じゃ、ないよね。
何かがちょっと綻びかけているような気がして
オレは口の中が酷く乾いていくのを感じた。

何かが変わる、それはとても怖いことだ。
きっとそれはにも解っていて、だからこんなに手が震えてる。

核心を突かれるのは怖い。
核心を突くのも怖い。

それなのには口を開いた。

「キヨは、本当はずっと好きな子が、いるんじゃないの?」
「え…」
「付き合ってきた子は、それに気付いて離れていったんじゃ、ないの?」

本当に好きな子はずっと他にいて。
けれどもそれを伝える勇気はなくて。
もしも拒絶されてしまえば、今の関係も終わってしまうから。

そんなオレに好意を寄せてくれる他の子に、逃げて。
でも結局逃げ切ることも出来なくて。

別れを切り出すのはいつも相手からだけど、
気持ちがなくなるのはいつも自分からだった。
凹んでる理由は振られたからじゃなくて、
誤魔化すだけじゃ諦められない想いを再認識するから。

「ずるいなあー、は」

それも全部、解ってて言ってるんでしょ?
オレに何を言わせたいのさ。

いつの間にかオレの頭からの手は遠のいて、
硬く握り締めた小さな拳はの膝の上で頼りなく震えてる。
ここで逃げちゃ…やっぱり、駄目じゃないかな。オレも。

「それじゃ、オレが本命の子に本気でアタックすれば何とかなると思う?」
「……それは、」

酷く緊張してる様子を悟られないように、
ただじっとを見つめると、視線は泳いでオレから逃げる。
次第に涙目になってしまったが、ついには俯いて、
オレはやっぱり答えなんて求めるものじゃない、と視線を切ろうと、して、

「…大丈夫、だよ」

小さく小さく呟かれた言葉に目を見開くほど驚いて
改めての方を見ると、死ぬほど真っ赤だった。

きっとオレの事、全部解ってるの一言。
つまりそれは、それが…の答え?

今度は反対にオレがの頭に手を伸ばして、
そっと髪に触れると大げさに震えた彼女にちょっとだけ苦笑して。
漸く顔を上げたと視線が絡んだ。
だからオレは、

「好きだよ、が」

すんなりと、口にしてしまった。

結局泣き出してしまったが、
オレの励まし役に回るたびに辛かったって言ってから
嬉しそうな笑顔を見せてくれるのは、数分後のこと。











お互い距離を測りかねた2人。