あぁ、寒か。
いくら天気が良くても、日が沈むのが早いから
放課後ともなれば格段に冷え込んでしまう。

本来ならば今日は部活があったはずじゃけど、
今日は四六時中人に囲まれ祝われ、正直疲れてしまった。
その苦労は大抵テニス部員ならば周知の事実で、
今日に限っては休んでも誰一人文句は言わんかった。

「ま、待って待って!!」

校門から出た途端、パタパタと忙しない足音を立てて
俺の横に走ってきた、女生徒。
その姿に内心少し驚いて足を止めた。

「何じゃ?」
「え、っと!連絡事項、が」

…たいした距離走っとらんじゃろうに、息切れすぎじゃ。
体力無いくせに頑張ってマネージャー業に勤めている
俺の半ば呆れた視線にも気付かず、プリントを一枚差し出した。

内容はといえば、態々走って伝えに来なければならないようなものではなく、
ざっと目を通すと、プリントの端の方に「プレゼントだよ」なんてふざけた言葉。
この筆跡は…幸村か。

「お前さん、部活は?」
「んー…何か、今日はもう帰っていいって幸村に言われて」

じゃろうな。
お節介なのか、はたまた労力削減のためか、これがプレゼント、か。
ニッコリ笑っていたであろう幸村を思い浮かべて苦笑する。
企みかもしれないと思いながらも、素直に喜んでいる自分がいるのは紛れも無く事実だ。

「じゃあ、一緒に帰るか?」
「うんっ」

途端、嬉しそうに笑った…と思うのは、都合のいい解釈かもしれない。
そんな些細なことが嬉しいなんて、俺も相当中てられちょる。
「うー寒か」なんて呟きながら出来るだけ自然にの手を掴むと
一瞬驚いたようではあったものの、振り払われることは無くてホッとする。

「それにしても、今日凄かったねぇ、仁王」
「あー…正直しんどい」
「あはは、そんなこと言っちゃ駄目じゃん」

あっけらかんとして笑いながら返すに、こっそり溜息。
あーもう、鈍か。お前さんぐらいじゃ、まだ俺に、言葉一つくれとらんのは。

「でも知らなかった、今日誕生日だったんだね」
「知っときんしゃい、誕生日ぐらい、マネージャー」
「えー…部員全員の?それは流石に」

…いや、全員の覚える必要なんざないから、俺のはせめて。
なんて言えるものならとっくに言ってるから、胸の内で思うだけ。
の手は案外冷たいのに自分の手は汗ばむほどで、
そんなことすらお互いの温度差のようで、片想いだと突きつけられてるようで憎かった。

「でもごめんね、そのせいで何も準備できなかった」
「前もって知っとったら祝ってくれたんかの?」
「そりゃ、勿論」

仁王は大切な友達だから、って笑う。
ちょっと、望んでるのと違うんじゃけど、…仕方なか。
でも、祝ってくれようとはしていたんだから。

「じゃ、今からでも祝ってくれんか?」
「へっ?」

ベタかもしれん、けど。
折角の幸村からのプレゼントでもあるし、少しぐらい、

「うん、いいよ!」

…気持ちを伝えてみようと思ったんじゃけど。
アッサリと承諾したに不意を付かれる形で言葉を失うと、
握っている手をぐいぐい引かれて、半ば引き摺られるように歩いた。

あれよあれよという間に連れて来られたのは駅前の喫茶店。
呆けているうちには手早くケーキセットを2つ注文してしまい、
ハッと我に返るとにこにこしたままがこっちを見てた。

「奢りにするから」
「は?」
「プレゼントは間に合わないけど、お祝いなら何とかできるし」

間もなく運ばれてきたショートケーキとコーヒー。
はその上、自分のケーキに乗っていた苺を俺のに乗せて、

「仁王、誕生日おめでとう!」

って、言った。
本当は一番祝ってほしかった奴からの突然の言葉に
いつもの調子が出なくてぶっきら棒に「おう」なんて返事を返すと
照れてるー、珍しい!とか言いよった。…煩か。

苺に真っ先にフォークを刺して一つ食べると、思った通り酸っぱい。
俺と同時にケーキを一口食べたはほんの一瞬、羨ましそうな目線を俺に向けた。
…そんな目、するぐらいなら見え張って苺なんてよこさんでもええのに、全く。
ぷすりともう一つの苺を取ると、やっぱり一瞬こっちを見たのその口に突きつける。

「食べんしゃい」
「え?」
「気持ちだけで十分ナリ。お前さん、苺好きなんじゃろ」

そう言うと、ちょっとだけバツが悪そうには笑って
一拍置いた後、ぱくりと苺を頬張った。
あ…マズい、思ったよりかなり可愛か。
自然とやったつもりなのに、やたら恥ずかしいような気がして鼓動が早まる。

「おいしー」
「酸っぱくなか?」
「そう?結構甘いよ」

にこにこ笑うにつられて笑うと、祝っている側のはずのの方が嬉しそうだ。
畜生、お前さんは無自覚で可愛すぎるから駄目なんじゃ。
生クリームで若干甘ったるくなった口内を緩和するようにコーヒーを口に含んだ途端、
「そうだ、」とが再び口を開いた。

「何じゃ?」
「プレゼント、無しってやっぱり嫌だから…遅れてもいいかな」
「んー、気ぃ遣いなさんな」
「えー、だって、しっかりお祝いしたい。ねぇ欲しいものとかある?」

欲しいもの…だなんて。

「お前さん」
「へっ?」
「…が、祝ってくれただけで十分じゃ」

言えるか。
誤魔化すように繋いだ言葉に目をぱちくりさせるを見て
我ながら中途半端で滑稽だと可笑しくなる。
ところがまさか、がこんなこと言い出すなんて思っても見なくて
次に驚くのは完全にこちらの番。

「なぁんだ…仁王にだったらあげてもいいのに」
「はぁ!?」
「そ、そんな声出さなくても!私変なこと言った?」

コイツ、ちゃんと解って言ってるのか?
って、思ったけれど…照れ隠しのようにケーキをわざと頬張る姿でその疑いはすぐに晴れた。

「じゃあ、お前さんが欲しい」
「……どーぞ?」

うっわ、何つーベタな展開。
流石の俺も、まさかこんなことを言うとは思ってなかったし、それを承諾されるとも思ってなかった。
けれどまぁ、…が今まで以上に可愛かったから、それでもういいのかもしれん。

「誕生日に便乗してごめん」
「ん、」
「仁王、大好きです」
「おう、俺も」

小声で告げる言葉が嬉しい。
テーブルを隔てたその距離すらもどかしく、
思いっきり抱きしめてキスしたいような気持ちになりながらも
最高のプレゼントに、俺は心からの笑みを浮かべた。











ハッピーバースディ。